英文名 | Biodiversity Conservation | |
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科目概要 | グリーン環境創成科学科2年後期 [木曜日2時限]、3群科目、必修、講義、2単位(30時間) | |
担当者 | (◎は科目責任者,※は実務経験のある教員) ◎柿野 亘※ | |
講義室 | ||
備考 | 科目ナンバリング:VG301-DS03 |
わが国の生物保護や保全は,環境省レッドリストに記載される希少種を対象として進められている。一方で,海外での生物保護・保全の動向では群集や生態系そのものを対象に将来予測に基づいた対策が進められている。そこで両者の動向の違いを踏まえながら,生態環境保全のために外部者として地域に入りることを想定し、保全に携わる人材に必要な種々の調査手法や考え方を理解することを目的とする。
近年,生物多様性の崩壊が深刻に懸念されている。本科目では生物環境が直面する危機とその原因、保全の取り組みについて講義する。保全に関する国際的な動向だけでなく、ローカルな環境の修復・保全・管理・利用についても解説する。保全に関する先進的な科学知識と、現地で保全に取り組むために実用的な知識や技術の両方を修得することを目指す。とくに,ローカルでの取組については、複数の事例に基づいて、地域ごとの動植物の生息分布を効果的,効率的に把握,評価する方法、環境的な特徴や地域住民のもつ地域の論理(自然と地域住民との関係)を把握する方法を踏まえて、どのように地域での保全に動機付けできるのかを学習する。また,生物多様性崩壊に対する地域規模の空間スケールでの対策を考える。
各回の講義内容に応じて,資料を作成して配布する。
〇DP1:グリーン環境創成科学の理解、豊かな教養と高い倫理観
◎DP2:生物多様性の重要性を理解し、その維持や回復に貢献できる能力
◎DP3:食料生産が生態系に与える影響を理解し、生産力の向上と持続性の両立に貢献できる能力
〇DP4:地球環境における物質循環を理解し、環境修復に貢献できる能力
〇DP5:植物や微生物の生物機能の開発に関する技術を理解し、カーボンニュートラルおよび環境負荷低減の技術開発に貢献できる能力
回 | 項目 | 内容 | 担当者 |
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1 | わが国の生物保護・保全の現状およびわが国と海外との違い | 希少種を保護・保全の立脚点とするわが国と群集,生態系を立脚点とする海外の保護・保全対策との違いを事例や文献に基づいて紹介する。他方で生物多様性崩壊の危機が生じる可能性が現在の人間生活や人間社会のどこに問題が所在しているのかを問う。 キーワード:種の管理,生態系ベースの管理,ビジョンと順応的管理,倒流木,暮らし,限界効用,自然の有限性,状態空間モデル | 柿野 亘 |
2 | 生物環境保全が対象とする空間スケールの整理と地域規模の空間スケールにおける保護・保全方策の大空間スケールに及ぼす影響 | 空間スケール概念の説明とそれぞれに該当する環境問題を整理する。近年の気候変動など地域規模では扱えないような環境問題が多数生じてくると,生物環境保全自体の優先順位は社会の中でますます低くなることが懸念される。しかし,それでも生物環境保全が直接関わってくるのは地域規模であることは変えられないことから,どのように他の環境問題と接点をもたせたり,人間生活との接点をもたせたりできるのか?さらにはより大きい空間スケールへの影響を与えうるのか?その可能性について言及する。 キーワード:大空間スケール,中空間スケール,小空間スケール,マイナーサブシステンス,自然と人間との接点,生存基盤,環境教育 | 柿野 亘 |
3 | 人間による生物生息環境への介入の功罪の整理と保護・保全への活用の試行 | 生物環境を保全するためには,どのようなアプローチが考えられるのだろうか?とくに実際の社会において,生物環境と人間生活環境(暮らし)とが関わり合う接点を整理し,双方の接点を持つことの重要さを理解しつつ,当該地域で接点を創出・実装するために必要な取り組みについて学習する。 キーワード:攪乱,介入の二極化,シフティングモザイク,水田呼称の多様性,環境負荷と生態系の質との関係,自然(じねん)概念,nature,自然と人間との接点,ムーブメント,接点のパッケージ化 | 柿野 亘 |
4 | 種々の指標としての保全対象生物種を選択する意義と保全プロセス | わが国における保全対象種の指標性と保全プロセスについて説明する。また,現在の保全プロセスの問題点についてもふれるとともに,改善案を提示する。 キーワード:指標種,レッドリスト,順応的管理,保全対象種 | 柿野 亘 |
5 | 保全対象地の利害関係者の意向を把握する手法 その1 踏査による仮説の導入と調査による検証 | 保全対象地を含む地域には,地域資源(生物を含む)に対する価値観が存在する。この地域ごとで異なる価値観を「地域の論理」と呼称し,いかにこの地域の論理を短時間に効率的に把握し,生物を含む保全対象地の保全に合致させるのか,について考える。 キーワード:ヒヤリング,意向調査,アンケート,動植物の地方名 | 柿野 亘 |
6 | 保全対象地の利害関係者の意向を把握する手法 その2 オーラルヒストリー手法による「本音」の把握 | 保全対象地には当該地に関わる地域住民や組織といった複数の立場の関係者が存在するそれぞれの保全対象地に対する「本音」をどのように把握するのか?把握したことをどのように保全等計画に活かすのか?について説明する。 キーワード:言い分(いいぶん),ショートオーラルヒストリー | 柿野 亘 |
7 | 生息生物の分布調査手法と保全方法 その1 魚類 | 魚類を対象とした保全対象水域での調査範囲の設定と環境に応じた調査方法について説明する。また,分布の集中度判定法に基づいた分布形態について学習する。また,淡水魚類の生活環や生態的特徴を踏まえた保全方法について説明する。 キーワード:淡水魚,移動,分散,餌資源,ネットワーク概念 | 柿野 亘 |
8 | 生息生物の分布調査手法と保全方法 その2 両生類 | 両生類を対象とした保全対象水域での調査範囲の設定と季節や地形に応じた調査方法について説明する。また,個体数推定方法を説明する。両生類の生活環や生態的特徴を踏まえた保全方法についても説明する。 キーワード:カエル類,コドラート,越冬生態,除去法,標識採捕法 | 柿野 亘 |
9 | 生息生物の分布調査手法と保全方法 その3 イシガイ類 | イシガイ科およびカワシンジュガイ科を対象とした保全対象水域での調査範囲の設定と調査方法について説明する。また,本類の生活環,生理・生態を踏まえた保全上の今日的課題,保全方法についても説明する。 キーワード:分類体系,寄生生態,宿主魚,稚貝生態 | 柿野 亘 |
10 | ビオトープ造成 その1 計画・設計 | ビオトープとは何か?どのような場所にどのように計画・設計すればよいか?を説明する。また,実際のビオトープ創出事例についても説明する。 キーワード:景観生態学,エコトープ,鳥類,トンボ類,ゾーニングと共生 | 柿野 亘 |
11 | ビオトープ造成 その2 施工・管理 | ビオトープ施工管理のあり方や完成後の管理についても説明し,今日的課題を整理する。 キーワード:工程管理,法面勾配,護岸設計,安定検討,順応的管理 | 柿野 亘 |
12 | ビオトープ造成 その3 生態系サービスの享受 | ビオトープでの活動事例を紹介するとともに長期にわたり持続可能な要因について考える。 キーワード:環境教育,環境イベント,災害時の避難場,活動組織のネットワーク,小学校のネットワーク,オンライン交流会,アメリカザリガニ | 柿野 亘 |
13 | ビオトープ造成 その4 手道具を介した自然と人間との接点の強化 | 自然との接点の多くは直接人間が介入するために必要な道具を必要とする。近年では機械化,自動化の促進が著しいが,マイナーサブシステンスとしてあえて手道具に着目し,製作からメンテナンスを含めて使用方法の奥深さにふれる。さらに,道具を使用したいために自然に接するという逆説的な運動の可能性について考える。 キーワード:打ち刃物,鍛冶技術,目立て,狂い直し,研ぎ,剪定技術,土木技術 | 柿野 亘 |
14 | 総括 | 講義全体を振り返り,生物保全に関わる問題課題の総論編,地域の論理の把握手法,生息生物調査手法と保全方策,ビオトープ造成のそれぞれを体系としてまとめ,本科目の理解促進および補足を行う。 キーワード:体系,図化法,試験対策 | 柿野 亘 |
15 | 試験 | 本科目の理解度評価のために試験を実施する。 | 柿野 亘 |
1.生物多様性を保全するための複数のアプローチやプロセスを説明できる。
2.自然と人間生活との接点を持つことの重要さを説明できる。
3.自然と地域住民との関係性を把握するためのアプローチを説明できる。
4.野生生物の生活環や複数の生活史に配慮した保全計画について説明できる。
5.ビオトープ創出から管理までを段階ごとに説明できる。
期末試験(100点)で評価する。但し,欠席については「北里大学獣医学部試験細則」の第5条第2項(原則として実授業時間数の3分の2以上出席していること)を適用する。
「予習」:各回の項目,内容(とくにキーワード)を確認し,凡その内容をイメージするとともに,新たな語句や専門用語については予め調べておく。
「復習」:配布資料の内容を改めて確認するとともに,計算問題については再度試行する。また,内容についてクラスメートと議論することも推奨する。
講義内容の部分的変更について:質問に応じて,授業時に補足したり,新たな文献を提示することがある。また,理解度を確認するために課題を課すことがある。
実務経験の授業への活用方法:㈱サンブレスにて河川を対象に多自然工法を,神奈川県庁で里地里山保全に係る事業を,民間稲作研究所で生きもの調査を,(独)水産総合研究センター増養殖研究所で水田養魚に係る事業を,それぞれ実務担当したことから,知見や技術を本科目内容に活用する。
種別 | 書名 | 著者・編者 | 発行所 |
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教科書 | (なし) | ||
参考書 | (なし) |